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長い感想

100文字では足りなかった時に

お大尽になりたい

ゲージュツ

金曜は有休を取って、ブリジストン美術館の閉館前の美術展「ベスト・オブ・ザ・ベスト」と、根津美術館の「燕子花と紅白梅」展を見にいってきた。どちらもGW明けには終わってしまうので滑り込み。すごく混んでた。

ブリジストン美術館は、私の散歩コース上にある「ご近所美術館」である。それに青木繁の「海の幸」が好きすぎて久留米の石橋美術館にも行ったので、今回出ていた絵はほとんど見たことあるやつである。というわけで、海の幸も、モネのベネツィアの夕景も安井曾太郎のF夫人もルソーの牧場も、建て替えでしばらく見納めだしばっちり楽しんできた。

私がブリジストン美術館を好きなのは「上品なお金持ちの友人の家にお招きされた感」があるところ。大きい美術館ではないし、天井もそれほど高くない*1。クラスメイトの石橋くんち居心地いいな、おじいちゃん絵の趣味いいよねー、という感じ。インティメイトな空間に、奇をてらわず質の高いコレクションが並んでいる。いつ行っても「割と良い」ものが多く、さすが石橋くんちのおじいちゃん、お目が高いというかお金あったんだなぁというか。

奇をてらわず、というのはアート界では必ずしも尊いものでもないのかもしれないが、印象派を中心としたコレクションと簡単に言うのは惜しい、一定のトーンというか審美眼を感じる。お金が無尽蔵にあれば集まるというわけでもないのは、微妙な名品が一堂に会することでおなじみのポーラ美術館などを思い浮かべ比べれば分かる。鈴木くんとこのお父さんは何やらがつがつしとるね、という感じというか。いやポーラ美術館もすごくいいのもある、スーラとか。だけど成金的愛嬌のある美術館でもある。

ブリジストン美術館がしばらくおあずけになる分、西洋美術館に行く機会が増えそうである。さすがに散歩コースには遠いけど、近所に西洋美術館があるというのは贅沢なことだ。西洋美術館も企画展は混むが、常設展は企画展の喧騒がうそみたいに静かなので、ほどよき頃に、良いコローやドラクロアやでかい睡蓮などを見に行こう。

 

それから根津美術館へ。あそこは茶趣味というか、独特の企画展をやる。つまり今はカキツバタの季節なので、それに合わせて目玉収蔵品である光琳の燕子花屏風をダシにした企画である。美術館の名にもなっている日本の鉄道王根津嘉一郎は茶人でもあるのでそういう企画にも納得感がある。
琳派も一時期流行した*2ので見たことあるものが多い。素人の私でもカッコいいと思えるモダン・デザインは「これ欲しい!」と物欲を刺激する。蔦の細道図屏風なんて、うちに置いといてリビングのパーティションにしたい。本気です。マンションのフローリングの部屋にも似合う。

 

琳派ものを見ていると、今まで続く日本的生活・文化の多くが江戸初期に固まった*3というのが、すんなり納得できる。祖父母の家を思い出させる和風感というか。
まぁこの辺は、20世紀末期1990年代をピークに滅びゆく生活・文化的習慣だったりもする。畳の部屋&床の間が一気に見かけなくなったのは20世紀末。思えばバブル景気って、社会構造だけじゃなくもっと深いところで色々なものを塗り替えたよなぁと思う。あと30年ぐらい経ったら「習俗史」になるのかな。誰か研究している人がいたりするだろうか。

 

根津美術館は「茶趣味」美術館なので、毎回、併設展示という形で、企画展に合わせた茶会のセッティングを見せている。資料によると今回は「昭和6年(1931)5月、初代根津嘉一郎は友人を自邸に招いて「燕子花図屏風」を披露し、庭園では野点の茶で客をもてなしました」とある。ちゃんとその時の茶会の支度を控えておいてるのだよなぁとかしみじみとそのマメさと大尽ぶりに感服しつつ、並ぶ茶道具に「わー欲しい!」とか「わー金持ちっぽいわー」とか言いながら見ていた。

一通り眺めて、さてとさっき気になったお気に入りのブツをもう一度眺めてやろうかね、とうろうろしていたら、私の斜め後ろでぶつぶつ言う男性がいる。
どうやら、60代ぐらいかなという雰囲気のご夫婦の、夫の方がずっと文句を言っているのだ。美術鑑賞も一日やってるとさすがに集中力が切れてきてたのもあって、しばしその夫の言葉に耳をすませてみた。曰く

扇面図の図案集を見て「なんだこんなもん、子供にだって書ける」
乱箱を見て「汚い!こんなの何がいいんだ!」
最後の茶室仕立ての部屋で「ふん、こんなもん金持ちの道楽だろ、ふん!」

奥さん、旦那さんを連れ出す場所を間違えたのではないか…、とドキドキしていたらいつの間にか奥様は居なくなっていて男性が一人で独り言を言っているかたちになっている。こういうの、老夫婦特有のあうんの呼吸でオッケーなのかなとも思ったが、ちょっと旦那さんがかわいそうでもあった。
だってさ、そりゃあ趣味はすこぶる良いけど「金持ちの道楽」って当たってるもんね。大正解。そういう意味では旦那さんも(審美的ではないけれど)見る目はある。

できれば、旦那さんが乾山の焼き物を見た時の感想についても、聞き耳を立てたかったという欲求もあるけれど。まぁ美術館デートみたいなもんは、夫婦とかカップルとかという言う単位に固執しないで、趣味の合うもん同士か、もしくは一人でちゃっちゃといった方がいいなと。

 

ふと思い立って、企業系美術館を立て続けに回ったのだが、私設の企業系美術館って色があって本当に面白いな。
出光美術館の東洋趣味なんかも捨てがたいし、住友、三井の「江戸からの大旦那ですねん」的な江戸趣味ど真ん中の迫力のコレクションも良い。現代芸術でいえば東京だと原美術館とか後はご存じベネッセアートサイト直島という新興の大御所もある。みなさん、お金儲けも上手な上に審美眼というか、大尽力も高かったのだなぁと、心底うらやましく思う次第です。

企業系美術館といえば、六本木ヒルズの森ビルのやつと三菱のやつもあるけど、あれはまぁ、どっちもグッと来ない。美学というか、執念というか、必然性というか、そういうのが全然感じられないのがイマイチである。ショーバイとしての美術館というか*4。住友の博古館といえば「能装束をみたいなら博古館がいいよ」と言われるようなもんでもあるし、最近できた三井記念美術館は茶道具がさすがの宜しさである。この二者はどちらも江戸時代から「そういうもの」のパトロンをし続けていたんだろうというのがよく分かる。

森ビルとか三菱は新興勢として、立派な新しいパトロンをやってほしいものです。森はまぁ現代美術に力を入れていて企業イメージとしてもあーそうね感あるけど、三菱一号館はどうなんだろう。静嘉堂文庫の方がどう考えても素晴らしいだろうになぁ。それ見せてほしいけどなぁ丸の内で。色々あるんだろうけど。その辺が大尽力が足りないところだぞ*5

*1:個人的には美術館の天井は適度に高くあってほしい。一番嫌いな美術館は東京都美術館である。穴蔵かと思う天井の低さ

*2:美術展の流行って芸術新潮よりもBLUTUSが作ってると思いませんか。よいか悪いかはよく分からないけど

*3:生活習俗の多くは室町時代に一般庶民にまで広まってうんぬん、と日本史の授業で勉強したのだがあってますか

*4:ある種、名前がころころ変わる東郷青児記念美術館みたいなもんかね

*5:大きなお世話過ぎることは自覚しております

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