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長い感想

100文字では足りなかった時に

相続税は厳しいぐらいがちょうどいい、というのは表面上しか見えてないかもしれない、という話

長すぎるブクマ的なもの

この話、ブコメを見ると、『行きすぎた節税策がないかチェックを厳しくするよう全国の国税局に指示したことがわかった』のところに反応している人が少なくない様子なので、いいぞいいぞ、みんなもっと積極的に怒っていこう!という気もしないでもないけど。一方で、まぁ実務では「現実」に追いついていくのは難しいんだろうなぁ。ザ・いたちごっこ。

で、なんでこんなアホらしいことが起こるのか、ということです。

www.asahi.com

 

固定資産税や相続税は、「持ってる財産」に対してかかる税金=資産税と言われる。
資産税ではないものとしては、消費税なんかは消費に対してかかる税金、所得税は所得に対してかかる税金で、こちらの方が国税の税収の大半を占める。実は相続税が占める割合は全体の税収の2%にも満たない。

国税・地方税の税目・内訳 : 財務省

 

ご存知の通り、相続税は多くの人にとっては支払う機会がない税金である。
多分全国でも上位1割未満、東京とか大阪とかカネモチの多い地域(というか土地の値段が高い地域だね)だと死んだ人全体のうちせいぜい2割程度に対してしか、かからない。カネモチ税である*1

そういう意味では、格差の固定化を防ぐためには良い税制のように見えるし、一方で、税収入という面でいえば母数が少ないので大したインパクトがない税制でもある。今年から基礎控除が下がったから若干すそ野が広がったとはいえ、所詮はすそ野だから税収面ではさほど大きく貢献しないじゃねと言われてたりするし、更に言えば、カネモチ囲い込み柵として相続税の撤廃・緩和傾向という国策って間ちょっと流行ったりもしていた*2

 

相続税というか資産課税って、そういう面白い傾向が見られる税金なのだが、相続税のニュースに接する時に、ちょっと気を付けておきたいことがある。

邪推する人によっては、カネモチ税である相続税の締め付けをキツくしとくと庶民感情がなぐさめられるから消費税増税所得税の税率改定などの「原則すべての人が支払う税金」を厳しくする時には同時に相続税を厳しく改定するんだよ、とか、庶民のガス抜きのために定期的に「抜け穴がある程度に」締め付けを厳しくしてるんだよ、なんてことを言われたりもする。

なので、単純に格差是正だ増税だと歓迎するだけでは、本質を読み間違えて結局消費税増税の議論をする上での「ガス抜き」に使われ、まんまとMOFと国税に踊らされた、なんてこともありうるのだ。ちなみに、消費税8%が可決された年は2012年、相続税基礎控除改定の可決は2013年・施行は2015年である*3

 

まぁそういう風の噂はちょっと置いておいて、実は相続税はちょっと不思議な運用がされている税金である。

何かというと、相続税をかける元になる「財産が幾らあったか」を計算する方法が、法律文面には定められていないということである。要するに、いくら税金をかけるかの「元」が法律では決まっていない。

 

他のほとんどの税金は、儲けた「金」、稼いだ「金」、使った「金」と、「金額」に対して税金がかけられるのだが、相続税(や贈与税などの資産国税)については、「財産」が対象になる。株券なんかだと死んだ日の終値ベースで計算されるから*4、分かりやすいが、「定価」がない財産だってたくさんある。

 

例えば、道楽者のじいさんが集めた骨董品や、住んでいた家や土地など。値段が人によって違うものにも税金をかけたいわけだ。

 

で、冒頭のニュースのように「タワーマンションの評価が穴だからそこ付いて税金安くしたろ」とか「そういう脱法行為をするなら網かけたろ」という余地が生まれる。

 

実はこういう、相続税などに関する「財産の評価の仕方」は、驚くことにほとんど、法律条文で明文化はされていない。ちょっと不安定な構造の上に成り立っている税金なのだ(参照租税回避への対応を含む財産評価のあり方−裁判事例等の分析を中心として−(要約))。

で、具体的に実務はどうやっているかというと「財産評価に関する基本通達」というものを国税庁が決めて、国税庁から各税務署に、各税務署からそれぞれの税理士に指導が入るのである*5。この財産評価の基本通達ってのが、本当に山ほどあるし、税制の改正とともに通達も変化するので、普通の人が法体系を理解するのは大変骨の折れる作業になる(まぁだから税理士が居るんでしょうけども)。
ちなみに、銀座鳩居堂前のウンタラカンタラでおなじみの「路線価」も、財産基本通達のひとつなんですよ。

 

基本的な財産計算方法ぐらいは、ユー!もう法律文面にしちゃいなよ!って思うんだけど、ずっと「通達」のままなんだよね。なんでなんでしょうね。面倒だから?いやほんと、本気で国税が恣意的にやろうと思えばやれちゃうんじゃないかなぁと思ったりするんだけど*6

まぁ現実的には、「今からはもう面倒」ということもあるのかもしれないし、財産の評価の方法って本来は即時性をもって対応すべきことなので*7、法律にしちゃうと色々、法案作って根回しして委員会にかけてうんたらかんたらと、手続プロセスが面倒で即時性が失われるからという建前もあるかもしれないなぁとか、まぁほとんどの人には関係のない税金だから、関係者だけが知っていれば良いという流れでずっと来ちゃったのかなぁとか、思ったりしている。真実は知りませんが。

まぁ、タワーマンションの件については、ずいぶん前からなんとかせーよー、と言われてたところではあるので、実際には「販売時の価格差を係数にして計算せよ」とかそんな程度の内容になるんでねーかな。その程度ならだれも大して傷つかないとは思う。あわてて売り急ぐ人が増えて価値下落して、キャピタルロスが出る可能性については知りませんが笑。

 

カネモチ税って、とかく「金持ちからはどんどんむしり取れ!」と言われがちで、私ももちろん積極的に同意していきたいところではあるんだけど、一方で、あんまり厳しく取り立てると、カネモチほどフットワーク軽いから国外脱出*8しちゃって、結果的に全体の税収が下がっちゃうなんてこともあったりする。結構繊細なバランスで成り立っているようなものでもあるので、まぁ、税金徴収の運用方法が決まる裏側にどんな思考と計算と思惑が隠されてる可能性があるか、というのも、たまには考えてもいいかもねと思ったりはします。

*1:話はちょっと変わるが、地域別の納税状況を見るとほんと地方って大変だなぁとしみじみします

*2:逆に格差拡大が著しいアメリカ国は、相続税増税傾向だったりもしますね。あとやっぱりピケティ先生の出現は、租税関連の勉強をしてる人たちの間ではかなりのインパクトだった模様です。

*3:東日本大震災直後だったのと政権交代と消費税攻防があったので、2010~2012年は国税関連の法案の攻防が激しかった。相続税基礎控除引き下げは本当は消費税増税の前に法案審議に載せるはずだったけど、消費税増税を通すための駆け引きに使われたりしてたという風の噂などもあったりなかったり…

*4:非上場株なんかはひどく七面倒くさい計算をする必要があって、ここがまたそこそこ玉虫色状態になっている。ここも脱法の温床になってるけど、これ突っ込む勇気がある議員センセ方は居ないと思う笑

*5:こういう通達が入りそうだよ、というのは風の噂で入ってきたりはするので今回のタワーマンションの件も、気の利いた税理士であれば、一年以上前から「そろそろ危ないかもしれまへんなぁ」と助言していたんじゃないかと思う

*6:まぁ実際は皆さん公務員ですし税理士にも色々団体があったりしますので、おかしな通達を出し始めたら大騒ぎにはなるとは思うけど

*7:ブコメに記しましたが、祖父が亡くなった時は酷い目にあった。バブル崩壊のように一夜にして不動産の価値が1/30とか1/500とかになった年なんかは、評価基準の改定がマーケットに追いつかないことがあって、それが生み出す悲劇のひとつ。まぁなんとか払えたらしいですが、うちがカネモチなわけじゃなくて、たまたま住んでたウサギ小屋の地面の値段が勝手に爆アゲしただけの話。

*8:シンガポールに移住なんていうのもちょっと前に流行ってたねぇ